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2008年10月18日 (土)

遙かなる白根(15)序章 100キロメートル強歩序曲

 初めての時は、この道に入って、私は驚いた。こんな山の中に周平は来るのかという思いが第一であった。しかし、それは、まだまだ序の口で、道を進むにつれて私の驚きは深まってゆく。 須川の信号から山道に入り、一山越えた所に別の世界が広がっていた。峠の高みに立ったとき、私は一瞬、周平のことも忘れて、目の前に広がる眺望に目を見張った。「わあー、山がきれいだ」 隣りに立つ周平は、遙か彼方の高く青い山を指さしていった。視線を動かすと山の裾野に、いくつもの集落が点在している。白砂川は、その間をぬって流れ下っていた。 車を走らせると、目的地へ向う道は狭い谷に分け入るように奥へと伸び、私達はしだいに高くなる谷川の音を身近に聞きながら進んだ。古い農家のたたずまいや道端の素朴な姿の道祖神は、まわりの自然の中に溶け込んで、歴史の古里・六合村の素顔の一端をのぞかせているように見える。私達の車は、花敷温泉を過ぎ、長笹沢川に沿った切り立つ岩壁の下の道を進みやがて尻焼温泉に着いた。尻焼温泉は、谷を流れる川底から温泉が吹き出て、せき止めた川の一帯がそのまま、温泉として楽しめるようになっている。川底のあつい石に尻をおろすと痔がなおるというところからこの名がついたともいう。強い酸性の湯に洗われた赤い大小の石が重なり合うように深く暗い谷の奥に続いている。そこは、まさに深山幽谷の入り口のように見えた。事実、この奥には、魔の沢といわれるガラン沢が横たわっている。温泉を囲んだ山の上には紺碧の空に夏の太陽が輝いている。私は、振り返って周平に言った。「周平、泳ぐか」「うん、泳ごう」私の行動のパターンを知っている周平は、待っていたように答えた。裸になって飛び込むと、周平も後に続いた。久しぶりに見る周平の明るい笑顔に、私は水をすくって投げた。飛び散る水滴が陽光を受けて周平の上で光った。 ☆土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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