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2008年9月28日 (日)

遥かなる白根(9)序章 100キロメートル強歩序曲

私は、頭を下げながら“周平だ”と思った。

大勢の人々の最前列の片隅に小さな周平が立っていたのである。舞台の上の家族の異様な光景とそれを包む人々の興奮。周平なりに大変なことが行われていると思ったに違いない。じっと、私たちを見詰める小さな姿が私のまぶたに突き刺さるように飛びこんで、重く下げた私の頭にいつまでも残った。あの光景は、選挙という訳の分からぬ重苦しい雰囲気と共に、周平の心に何を残したのか、後に周平の心の中をのぞこうとするときいつも思い出されるのがあの光景であった。

理想を求め、ほとんど無一文でこの世界に飛び込んだ私の姿は、白根の山で確たる資金計画もなく無謀ともいえる学校づくりに取り組んだ本吉氏のそれに通じるものがあるかも知れない。

後に私は本吉氏と出会い、それがきっかけとなって周平は白根開善学校に入ってゆくが、7日間ほどの体験入学を経て、

「ぼく、山の学校へ行くよ」

と周平に決意させたもろもろの要素の中には、厳しさの中で理想を求めて苦しんできた我が家の緊張した状況と、白根開善学校をつつむ雰囲気との間のある種の共通性を周平なりに感じとったという点があるかも知れない。

周平が他の子どもと比べて遅れていることを突き付けられたのはまず、保育園に入ったときである。周平は3歳で前橋市立芳賀保育園に入園した。周平の長く苦しい道のりの第一歩であった。保育園はまた、周平が初めて出会った競争社会でもあった。周平は、言葉も遅れているし、ルールに沿った遊びもできないということで、仲間の中に入ってゆけないという人生最初の難問に突き当たることになった。他の園児たちが飛び跳ねて遊んでいるとき、一人ぽつんと庭の隅でウサギやハトを見詰めて過ごすというのが周平の日常の姿となってゆく。

妻は心配しながらも、やがて追いつくときが来るのではないかという期待を心の隅に持っていた。家庭は「選挙」を通過し、当選を果したとはいえ後援会の行事などで相変わらぬ忙しさにまきこまれていた。

☆ 土・日・祝日は、中村紀雄著「遥かなる白根」を連載しています。

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