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2008年9月21日 (日)

遙かなる白根(6)序章 100キロメートル強歩序曲

都会の学校の生徒を見慣れた目で、白根の生徒を見るとき、初めは異様な感じをうける。規則のない自由な環境の中でそれぞれの個性をありのままに発揮しているのが彼らの日常の姿なのだ。彼らの姿を何度も見ているが、今日ほどそれぞれの個性が光って見えたことはない。私は、胸がふくらむ思いで彼らの動きを見詰めていた。一人一人が主役なのだ。みな、それを自覚しているに違いない。広い体育館に緊張した空気がみなぎる。若いエネルギーがこの空間に凝縮され、一気に爆発する。その瞬間が近づいているように思えた。遠く人里離れた山中の異様な集団。彼らは、これから何をしようとするのか。私の目には、腐敗した下界に、これから攻め下ろうとしている軍勢のようにも見える。入口から周平が入ってきた。私の方をチラッと見て、無視するように通り過ぎてゆく。その横顔に周平の決意が現われているようだ。他の人たちと同じように装備を整えている。そして、仲間の中に入り込んで見えなくなった。あの中に周平がいる。私は満足であった。本吉校長の話が始まろうとしていた。私は、時計を見ながら慌てて体育館を出た。生徒たちがスタートする前に山を下らないと、生徒の妨げになるし、また、車は走れなくなるのだ。山の道を下りながら、周平の完歩を祈った。そして、ここに至るまでの様々な出来事を思った。長い道のりの先に、先程のクラスメートと語る周平の姿があった。その周平が更に成長する場が、100キロ強歩であるように思える。今、自分が走っているこの道路も、100キロ強歩の舞台である。山の生徒たちはこの道を、何を思いながら歩くのであろうか。そして、100キロ踏破を目前にして、この坂を今夜歩く生徒の胸に何があるのか。その中に、周平は果して残っているであろうか。様々な思いを胸に、私は、前橋に向けて車を走らせていた。今日は、仕事の都合で、100キロ強歩の様子を見ることは出来ないのだ。花敷温泉からしばらく下ったところに、JR六合山荘がある。ここは、100キロ強歩の行き帰りのポイントで、妻は、行きのポイントを引きうける。六合の朝日が谷を染めるころ、周平はここに着くだろう。私は、JR六合山荘の広場を見て、そこに展開される生徒たちの姿、親と子が出会う場面を想像しながら車を走らせていた。 ☆ 土・日・祝日は、中村紀雄著「遙かなる白根」を連載しています。

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