「愛情で奇蹟はおこります」
◇表題の内容のメールを頂いた。先日、私が「日記」で書いた、「脳神経外科病棟の心打たれる光景」を読んだ方からである。私が外科病棟で見たのは、妻に付き添うほほえましい夫の姿であった。
メールは、この人の身内の方と同室の人の出来事である。植物人間になり流動食を入れるだけの状態で一年以上経過した夫を妻が毎日熱心に声をかけていたら、声を出すようになり退院する迄に至ったという。メールには、「愛情で奇蹟はおこります」とあった。
私は、先日、やはり「日記」で田口町の塩原さんの奥さんの例を紹介した。植物状態になった妻を塩原さんは毎日通って声をかけ、本を読んでやり手の温もりを伝えた。6ヶ月後に奇蹟は起き意識を回復したのである。
愛する人に対する真心は、最も根源的なメッセージとして、脳細胞の深部に届くのではなかろうか。長い進化の過程を経て成長した人間の脳は表面では測り知れない機能を蔵しているに違いない。脳を解明する科学が著しく進んだとはいえ脳の全てを知るには遠く及ばない。だから、簡単に植物人間と判断して、見放す態度を取るとすれば、それは、科学の過信であり、おごりであり、また人間の尊厳を無視するものだと思う。愛情が生み出した「奇蹟」はそのことを教えている。
◇白根開善学校の記事に思う。異色教師のことが新聞に出た。実は、私は、長男が同校を出た縁でこの学校の理事をしている。存在意義のあるユニークな学校であるが、時代の潮流の中で難しい問題を抱えているのも事実だ。この学校を支えるものは、教育に対する情熱と高い資質を持つ教師である。紙面で紹介された教師は、父親から虐待を受けた体験を持ちプロ野球選手を夢見たこともあり、横浜国大を出たあとは、劇団にも所属した。挫折を含めた多様な人生経験は「開善」の生徒の大きな支えになっているに違いない。私は、拙著「遥かなる白根」で長男周平を通して見た改善学校の事を書いた。この学校には全国から様々な子どもたちが集まっている。厳しい条件に耐えられずに脱走する生徒も珍しくない。恒例の「100キロ強歩」の実践は、この学校の凄さを示すものだ。
六合村(くにむら)の奥地にあるこの学校は、日本の社会と日本の教育の問題点を写しだしている。全寮制なので人間関係を学ぶ重要な場となっているし、今叫ばれている体験学習や環境学習の点では理想的な教育環境である。
白砂川、花敷温泉、尻焼温泉、長平公民館、これらを過ぎて曲がりくねった道を登りつめると白樺の林の中に校舎が立ち、入口の標識には「人はみな善くなろうとしている」とある。これはこの学校の建学の精神である。何度も通った六合の光景が懐かしい。開善学校は、今、長い冬から解放されて新緑の春を迎えようとしている。厳冬を耐えた子どもたちの快哉(かいさい)の声が聞こえるようだ。少子化の時代を耐えて開善学校が力強く歩むことを願う。(読者に感謝)
☆土、日、祝日は、中村のりお著「望郷の叫び」を連載しています。
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