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2008年2月23日 (土)

シベリア強制抑留『望郷の叫び』(78)第3章 青柳由造さんのシベリア

 ダガラスナの山地は氷が溶け、どこも湿地帯となり、水がビショビショと流れ出ている。春から夏にかけての重要な仕事に鉄道の敷設があった。冬の材木運搬用の鉄道であるが、私たちが通常考える鉄道建設とはかけ離れている。水が流れる湿地の上に丸太を並べ、その上にレールを置くのだ。レールの上を歩くとふわふわ動く。これが冬になると丸太はコンクリートで固めたのと同じ状態になり重い貨車に耐えることができるのだ。

 氷が溶けるのを待つように、野山には春の息吹があふれてくる。青柳さんは小さな草花を見て、この小さな命がどのようにしてあの冬を越すことができたのかと驚き、改めて生きていることの喜びをかみしめるのであった。

 食べ物に飢えている日本人にとって春の野山はいたる所に食べ物が満ちていた。野生のニラは、飯盒で水を使わずに蒸して食べると、甘味があっておいしかった。アザミの葉はゆで方が早いと口の中でトゲがチクチク痛い。ハコベラは少し伸び過ぎると茎の筋が堅くて美味しさが半減する。青柳さんたちは、情報を交わしながら工夫を重ねてあらゆるものを食べた。しかし失敗もあった。野生のニンジンや楢の木のキクラゲを食事代わりに食べていた者の中から、腹痛を訴えるものが出たし、中毒死した者も出たのである。森で暮らす人々や野生の動物は、長い年月の中でこのような失敗に学びながら生きることを学ぶのであろう。

 嬉しい発見があった。白樺の幹に斧で傷をつけると甘い樹液が出るのだ。空き腹にしみ込んで身体の奥から力が湧いてくるように感じられる。作業をしながら、朝、傷口に飯盒をあてておくと昼までに半分くらいは溜まる。作業の現場近くで白樺の木を見つけるのが楽しみであった。冬の間は、仲間が死ぬと人々は、「あいつも白樺の肥やしになる」と言いあった。雪の中に音もなく立つ白樺は厳冬を支配するもののごとく恐ろしく思えた。それが今や人間に恵みの樹液を与えてくれる。半透明の液体は、青柳さんには零下40度の凍土を生き抜いた生命力の源のように思え、頼もしくさえ感じられるのであった。

☆ 土・日・祝日は、中村のりお著「望郷の叫び」を連載しています。

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