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2008年2月17日 (日)

シベリア強制抑留『望郷の叫び』(77)第3章 青柳由造さんのシベリア

  森の近くではところどころ水が湧き出しているが、流れる間もなく氷となってゆく。凍った地面は上へ上へと盛り上がる。初めての冬の厳しさは青柳さんたち日本人捕虜の心までも凍結するかのようであった。その上に、ノルマで苦しめられ僅かな食べ物しか与えられない人々は、次々に栄養失調で倒れていった。

<同僚が栄養失調で息を引き取る時は、誠に哀れでした。私はやせるタイプだからよかったです。太るタイプの人は、早く倒れたようです>青柳さんは、しみじみと述懐した。

 強制収容所では、栄養失調が進むと顔も身体も太ってきて、皮膚の色は水のように半透明になり表面がぶよぶよしてくる。そして、体力は急激に低下して自分の身体を支えることもおぼつかなくなり、口元がもつれ、何を言っているのか分からない。まわりの者が、あいつはちょっと変だと気付くようになると死期が近いのだという。

 このような過酷な生活に耐えられず、脱走を試みる者が時々あった。二人あるいは三人が一組になって計画を立てて実効するが、三日~四日するといつも射殺されて死体で戻ってきた。死体は見せしめとして宿舎の前で一日中雪の上に放置された。

<こんなむごたらしいことが、この世にあるだろうか。50年以上もたった今でも、あの光景は頭から離れません>青柳さんは怒りを目に表して振り返るのであった。

六 ダガラスナの春

青柳さんは、初めてのシベリアの冬を生き抜くことができた。自分が生きることだけで精いっぱいで他人のことぉ考える余裕など全くなかった。改めて周りを見ると多くの仲間が姿を消していた。シベリアの各地の収容所で初めての冬に多くの犠牲者が出た。適者生存の原理のフルイにかけられたといえるかもしれない。精神的条件も含め極限を生きる力を備えた者だけが春を迎えることができたのだ。

☆ 土・日・祝日は、中村のりお著「望郷の叫び」を連載しています。

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