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2008年2月 3日 (日)

シベリア強制抑留『望郷の叫び』(72)第3章 青柳由造さんのシベリア

シベリアの冬は一気にやってくる。寒さは日ごとに厳しくなってゆく。十月の初めだというのに吹きつける氷のような風は、身を切るようで、不安におののく人々に、これから本格化する寒気の不気味さを告げていた。ここで毎日、煉瓦づくりが続いた。土を練って形をつくる、釜に火を入れて焼く、乾燥したものを一輪車で運ぶ。零下30度の屋外の労働は、ノルマが課せられて厳しかった。初めてのシベリアの冬であった。日ごとに増す凄まじいまでの労働は人間の限界を超えると思われた。その上に、極くわずかな食糧ゆえのひもじさに耐えることがつらかった。このような状況の中で、毎日、3人、5人と倒れる者が出てきた。青柳由造さんたちは、早くも、シベリア強制抑留に伴う三重苦、寒さと飢えと重労働に対面したのであった。しかし、レンガづくりの作業は実は、比較的楽な作業であったのだ。このことが分かる時が間もなくやってきた。 五 ダガラスナ収容所 12月も末に近づいたころ、青柳さんを含め50人ほどが名前を呼ばれ、別の山の中へ移動させられることになった。夜、列車に乗せられ、数時間かけて着いたところは、黒い森が近くに迫るダガラスナ収容所であった。背の低い建物が三棟、闇の中に音もなく並んでいる。青柳さんたちは、その二棟に分かれて入る。ギィーと鈍い音がして扉が開くと、そこには異様な光景が広がっていた。中央に暖炉があり赤い炎がチョロチョロと動いている。まわりには二段の棚が並び、その所々に取り付けられた松明があたりをボーッと照らしている。松やにの臭いとムーッとする人の匂いが鼻をつく。棚の上からいくつかの黒い顔がのぞいて新参者をじっと見ている。こちらに背を向けて暖炉に衣類をこすりつけている者がいた。プップッと音がする。シラミを焼き殺しているのだった。衛生状態が極めて悪いこともあって、シベリアの強制収容所ではどこでも、この白い小動物に悩まされた。シラミの不気味さと凄さは、その繁殖力と生命力である。成虫は零下10度くらいでは動いているし、衣類に産み付けられたタマゴは零下40度でも死滅しないのだそうだ。身体中シラミに取り付かれ血を吸われ、気が狂うほどの痒さに苦しめられ、揚げ句の果ては、恐ろしい病原菌を移される。実際にシベリアの抑留者の中には、シラミに命を奪われた人もいたのだ。 ☆ 土・日・祝日は、中村のりお著「望郷の叫び」を連載しています。

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