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2007年5月12日 (土)

『上州の山河と共に』連載(76)「決戦の時来る」

八方手を尽くして、次に見つけ出した候補地は、前橋市の建設会社が芳賀に所有する野球のグラウンドであった。ここは、道路から引っ込んだ所で、宣伝効果については期待できそうになかったが、それを問題にしている場合ではなかった。

 ここは、もう長いことグラウンドとして使用していることであるし、周りの町民も時々借りて使っている所だから、問題はないと考えられた。兎に角、選挙ができるということが嬉しかった。

 広いグラウンドの一角には、プレハブ小屋を建築する為に丸太の杭が打ち込まれ、建築資材を運ぶトラックも到着し始め、ことは順調に滑り出したかと思われた。

 私は、グラウンドに立って作業の様子を見ていた。この時である。グラウンドの隣りにある、このグラウンドを所有する企業の事務所から事務員走ってきて、本社から私に電話がかかった旨を告げた。

 私の胸を不吉な予感が走った。

「市の工業課から、選挙事務所に貸すことは目的外使用を禁じる約款に反するといってきています」

 ガーンと一撃をくらった思いで言葉を捜していると、電話の主は続けて言った。

「調べてみたんですが、あと1ヶ月で10年が過ぎるところなんです。申し訳ありませんが、市からそう言われたのでは、お貸しすることが出来ないのです」

 またかと思い、目の前が真暗になる思いであった。誰かが事細かに調べて市に通告しているのかも知れない。それにしても、それをそのまま受け入れて通告してくる市の態度にもすっきりしないものを感じる。またも、大きな壁に突き当たってしまった。天は私を見捨てようとしているのだろうか。私は絶望感に駆られて、しばし抗議する力すら湧いて来ない程であった。

 しかし、いたずらに腹を立て、絶望して足踏みしている時ではない。もはや一刻の猶予も許されなかった。このままの状態が続き、選挙が出来ないのではと、黒い不安が胸をよぎる。

 血眼になって捜しあてた場所は、小坂子町の外れ、畑の中にぽつんと置かれた、ある企業の資材置き場であった。所狭しと置場いっぱいに雑然と入れられている建築資材を片隅に積み上げ、整理して、やっとの思いで選挙事務所用のプレハブの建物を完成させたのは、3月も末のことで、もう告示が間近に迫っていた。

 前橋最北のこのような山里に県議選の拠点を設けるのは前代未聞のことと思われた。目の前に迫って見える赤城山から文字通り直撃するように吹き寄せる赤城颪は、プレハブの屋根をガタガタと鳴らし、中にいる者を心細くさせた。また、夜ともなると、小高い丘に立つ事務所からは、市街地の夜景が一望できるが、それも、私の目には、心細さを募らせるものでしかなかった。

 告示が数日後に迫ったある晩、もう殆んど人気もなくなった事務所の2階から、私は市街地を見下ろしていた。私の心は平静であった。この山小屋が、天が私に与えた条件なのだ。とすれば、あとは、戦い抜き、勝ち抜く他はない。こう思うと、闘士が漲ってくるのが感じられた。よし、これから、あそこへ攻め下るのだ。私は、火の海のように広がる夜の市街を見下ろしながら、拳を固く握りしめていた。

土・日・祝日は、以前からのご要望により「上州の山河と共に」を連載いたします。

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