『上州の山河と共に』連載58回「出馬を決意」
このような作業をしていた当時、肝心な、芳賀地区では、私の存在は、まだ全く認知されない状態であった。このことは、実に淋しいことであったが、芳賀へ移り住んで日も浅い上に、PTAや自治会などの役員すらしたことがなく、知名度がゼロに近い状態であることを考えれば、当然のことであった。
このような運動を始めてから二ヶ月程経った頃から、支援の手紙や電話が時々寄せられるようになった。
ある晩のことである。電話が鳴って、受話器を取ると、
「私は、Sという者ですが、あなた、今日、私の家を訪ねてくれましたね。今、あなたのパンフレットを読んだところです。家内から話を聞いて、あなたに、大変興味を持ったんですが、あなた、本気でやり抜く考えですか」
「もちろんです。命がけでやり通す決意です」
「なるほど。それで成算はおありですか」
私は、ずい分、ずけずけと物を言う人だなと思った。しかし、声の感じからして、これは、冷やかしているのではない、力を貸してもらえる人かもしれないと直感したので、私は真剣に答えた。
「成算と言われても困りますが、道が必ず開けると信じています。私がお会いすると、皆さん、大変関心を示してくれます。まだ、十分なご理解を頂くまでに至っていませんが、皆さん、私のことを、本物かどうか、眉に唾して見てくれている、という状態かと思います。私としては、いろいろな方に直接お会いしてお話できることが大変貴重な勉強になっています。こういう形で、有権者に訴えてゆくことが、本当の民主主義を実現してゆく道なのだと思っています。これは、実際に、運動をやってみて、はじめて実感できたことで、素晴しいことだと気付いたんです。
だから、私は、自分の歩いている道は、民主主義の理念にかなったもので、きっと目的地に通じていると信じているんです。一人一人のひとを頼りにしてやっているんです。どうか応援して下さい」
私は、顔の見えない相手に対して一気に話した。
「私は、いままで、いろいろな選挙にかかわってきたが、もう選挙は飽きた、というより嫌になっていたんです。もう二度と選挙はしたくないと思っていたところに、あなたの話を聞いて、若い頃、理想に燃えて飛び廻っていた頃のことを、今、懐かしく思い出していました。あなたに会って見て、もう一度よく話を聞いて、できたら、応援したい気持ちになってきました。」
「ありがとうございます。是非、会って私の話を聞いて下さい。」
私は、声の主にすぐにでも会いたい気持ちであった。そして、このような電話をくれる人が出てきたことは、この運動が、自分の知らない所でも反応を引き起こしている証拠だと思えて嬉しかった。
2、3日後、私は、打ち合わせをしておいて、S氏に会った。S氏は、60に手が届くほどの、がっしりした体格の立派な人物であった。彼は、今まで、様々な選挙に関わってきて、現在も、何人かの政治家とつながりをもっているので、名前を表に出すわけにはいかないが、今までの経験を生かして、力いっぱい応援すると約束してくれた。
★土・日・祝日は以前からのご要望により『上州の山河と共に』を連載しております。
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