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2006年12月 2日 (土)

『上州の山河と共に』中村のりお著 連載(27)「割田千鶴子と結婚」「司法試験に挑戦」

 私は少年の頃、吉川英治の宮本武蔵を夢中になって読んでいたが、そこに登場するお通さんは、私にとって憧れの女性像であった。割田千鶴子に出会った時、私には、彼女がこのお通のように思えたのであった。

 当時の私には、彼女が話すイエスキリストについては理解できない点が多かったが、信仰に打ち込む彼女の姿はさわやかに思えた。そして、信仰の点を除けば、二人の価値観は多くの点で共通しているように思われた。彼女は、弟の賢三が家族の中心になって必死になって働く姿に大いに感心し、何かとお手伝いしたいとしきりに言った。

 私は向ヶ岡寮にいて、勉強の合い間によく手紙を書いた。前橋の彼女からも毎週のように封書が届く。同室の家久君との会話に、時々彼女のことが登場するのも自然であった。ある時、家久君が、ふと

「君は、千鶴子さんを尊敬しているんだな」

と言った。私は、それには答えなかったが、自分の腹の中を探り当てられたような気がしたのを覚えている。

 私は、秘かに結婚を決意した時、先ず、福島浩に相談した。彼は非常に驚いた様子であった。聞けば、彼が以前勤めていた日本生命で彼女と一緒に仕事をしていたということであった。そして、福島浩は、彼女との結婚を強くすすめ、祝福してくれたのであった。

 結婚式は、前橋の臨江閣で質素に行った。しかし、弁論部の仲間たちは、仲間うちで初めての結婚式なので、皆、コンパにでも出席するような気持ちで大勢押しかけて、大変な賑やかな結婚式となった。家久君などは、自分が嫁さんをもらうかのようにはしゃいでいたのが昨日のように目に浮かぶ。

 結婚後は、私は寮で前と同じような生活を続け、彼女は私の実家に入り、毎日、朝から晩までダンゴ屋の手伝いを続けたのである。

 毎週土曜日、講義が終ると、私は、向ヶ岡寮の坂を下り、不忍の池を抜けて上野駅まで走る。電車が前橋駅に着くと、窓から見える位置に立って手を振る彼女の姿が必ずあった。

彼女は、

「賢三さんとおダンゴの配達は、とても楽しいのよ」

と言ったが、その窪んだ目は、仕事が彼女にとって相当厳しいものであることを物語っていた。

「司法試験に挑戦」

 私は、結婚を意識しだした頃から、卒業後の進路について考えるようになった。みじめな境遇から抜け出したいという一心で、また、単純な立身出世の夢を描いて東大に飛び込んだ私であったが、学園生活を重ねるうちに大分違う考え方をするようになっていた。私の学園生活は、ただ一筋にわき目もふらずまっしぐらに突き進んできたそれ迄の生き方を振り返る場であったし、また、それは、いろいろな本を読み、様々な人に出会うなかで刺激を受け、目を開かされ、考えたり悩んだりする場でもあった。(明日の日曜日に続きます)

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