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2006年11月11日 (土)

『上州の山河と共に』中村のりお著 連載(20)「東大受験を決意」

英語と国語は驚く程のこともなかったが、問題はやはり数学であった。大きな問題が5問、それぞれに四つの小問があった。一つ一点で、15点位がボーダーラインと聞いていた。4問までは無我夢中であったが、手応えもあった。いわゆる三角方程式というやつで、sin xcos yなどから成り立っている連立方程式である。

 これを見て、それまでは何とかなると思って進めてきたのに、ああ、これで駄目か、と思った。しかし、気を落ち着けて考えてみると、Ⅹ,Yの値は、30度、45度、60度、あるいは90度と言った特定の角度である可能性が強いと気付いた。そこで、最後の五分間、必至の思いで、サイン30度なら1/2、コサイン45度なら1/2と、あてずっぽうに当てはめていった。一次の試験は答えだけが求められ、式は要らないのである。連立方程式にちょうど当てはまる数字が見つかった時、カランカランと終わりを告げるカネの音が聞こえた。兎に角、終った。全力を出しきった快感と興奮に浸りながら私は前橋へと急いだ。

 私の留守の間、家では代わりに妹の恭子がバイクでダンゴの配達をしたりで大変であった。一次は、幾日も経たずして発表になるから、普通の受験生は宿舎に留まって結果を待つのである。しかし私には、そのようなことは許されない。発表の日も、朝の仕事は済ませて上京した。

 発表は駒場のテニスコートに番号をはり出して行われる。落ちる気もしないが、合格するとも思えない、複雑な気持ちであった。テニスコートには、発表の時間はとうに過ぎ、もう人は去って誰もいない金網に受験番号を書いた白い紙の張られた板が付けられている。胸が高鳴り、心臓の音が聞こえるようである。私の視線は、数字の列の上を突き刺すように走る。

「あった」

 私は、声を出して叫んでいた。自分の番号を見つけてみると、改めて、信じられないことに思える。東大が俄にての届くところに来たように思えた。しかし、そんなに甘いものでないことを間もなく思い知らされることになる。

 二次試験の数字は、五題出て、二題解くのがせいぜいであった。英語の問題も私の実力を超えていた。予想通り、二次試験の結果は不合格であった。しかし、手応えは十分に握ることができたと思えた。理科ニ科目、社会二科目も、時間をかければ必ず征服できると思えた。

 定時制も終了となり、夜の時間は以前よりも有効に使える。私は勇気百倍の思いで勉強に打ち込んだ。仕事のほうも一生懸命やった。お得意先でも、お兄さん頑張れよ、と励まされるようになった。ようし、俺は見事仕事と勉強を両立させてみせる、と私はなお極めて強気であった。しかし、その次の年も、一次合格、二次不合格であった。(明日の日曜日に続きます)

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