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2006年11月 4日 (土)

『上州の山河と共に』中村のりお著 連載(18)「東大受験を決意」

連載(18)「東大受験を決意」

私は、別にいい気になっていたわけではないが、眠い目を擦りながらじっと耐えている仲間の中には、鞄を抱えて出て行く私に反感をいだく者もいたに違いない。

気狂いのように、一筋の道を進むことは意外な成果を生むものである。英語は山崎貞の英文解釈の研究、数学は森繁夫の数Ⅰ、数Ⅱの研究を何とか八分通り征服した。なぜ、この本を使ったかと言えば、石田道夫の案内書に、東大受験生は、多くの者がこれを使うと書いてあったからである。

後に、受験生を指導する立場に立って、勉強の方法について聞かれたり、実際、いろいろな受験勉強に取り組んでいる人と接して思うことは、ベストの勉強方法、つまりこれをやれば労少なくして成果を上げられるという意味の最良の方法などはあり得ない、大切なことは、自分の決めた方法をやり抜くことだ、ということである。ほとんどの受験生が、参考書を取り替えたり、勉強の方針について迷ったりして、一貫性のないことをやって、同じところをぐるぐるまわっているように見える。

私の場合、参考書でも、勉強の方法でも、選択肢はほとんどなかったから、これと決めたことを信じてやり抜いたのである。だから、暗闇の中を手探りで走っているようで、実は一番近道をかなりのスピードで走っていたのかも知れない。

英語については、英作文が出来ないで困ったが、英作文には英文の暗記が何よりと聞いて、一年の時のリーダー「ニューメソッドイングリッシュリーダー」を、第一章の「うなぎの旅」から始めて、一冊をほとんど丸暗記するようなことをやった。

当時私達一家は、元総社から母の実家がある総社町の山王に越していたが、天川原の前高から、山王まで、自転車で一時間ほどかかった。この学校帰りの夜の時間を私は英語の暗記に充てたのである。23頁の、要所要所を紙にメモして、そこをたどりながら声を出して覚えるのである。ペダルを踏みながら、手を伸ばしてヘッドライトの光でメモを見ては、大声で英語を叫ぶ姿も、人が見たら変に思ったに違いない。

後になって、なぜ夜間高校から東大を受ける気になったのかと人に聞かれることがあった。暗い谷底から何を目指して抜け出そうかと目標を捜す私の目に、たまたま学問の府としての東大の姿がきらきらと眩しく映ったのであるが、中学以来の、勉強したくもできない、思いっきり勉強したいという欲求不満の鬱積も、私を動かすエネルギーになっていたに違いない。

また、夜の学生は、昼間の前高を意識するところがあったが、それは私も同様だった。福島浩や芝基紘達は、名門前高のエリートとして良い教師、良い環境の下で学び、良い大学へ進むことが約束されている、それに比べて、同じ前高とはいえ、自分達は惨めだなあという思いであった。(明日の日曜日に続きます)

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