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2006年10月21日 (土)

『上州の山河と共に』中村のりお著 連載(13)「元総社時代」、「前橋高校定時制」

連載13回「元総社時代」、「前橋高校定時制」

悶々と悩みながら、ペダルを踏んでいたある日、まちで、福島浩と出会った。彼は前橋高校の一年生で、その制服の金ボタン、帽子の記章が一際映えて眩しく見えた。自転車を止めて立ち話をする中で、彼が話したことは私にとって衝撃的であった。それは前高には夜間部がある、多くの生徒が昼間は働き、夜、熱心に勉強している、4年間頑張って大学へ進む者もいる、ということであった。

私は、話を聞いていて、これだ、と思った。暗闇の中で一条の光を見た思いであった。私はさっそく父に相談した。今まで以上に働くから、夜学に通わして欲しいという私の希望を父も認めてくれた。

「前橋高校定時制」

 翌年、私は試験を受け、前橋高校定時制課程に入学した。前高の校舎は、天川原町、現在、生涯学習センターとなっている所にあった。まわりは一面田んぼで、夕暮れ時になると、この田んぼを斜めに走る細い道を通って、続々と生徒が集まる。授業開始は、545分であった。

天下の名門校、校歌でも「男子の粋を集めたる」と唄う前橋高校も、夜間部の事情は複雑であった。私のように経済的事情で昼間の高校へ行けない者が多かったが、中には入試に失敗し、一年間、夜間部に席を置きながら、翌年の入試に備える者もいた。もともと夜間部を目指して入って来た人達は、私のように一年遅れて入る者、あるいは、2,3年遅れて入る者などもあって、クラスの年齢構成もまちまちであった。

私は、中学に入った時とは、全く違った気持で入学した。一年間、学校を離れていたことは、私の中の知的なものへの欲求をかえって高めていた。そして、たとえ夜間部であれ前高の生徒になれたということは、それが何であるかは分からぬが未来の大いなる理想に通ずる細い道に足をかけることが出来たと思えて嬉しかった。

私は煎餅のカンを自転車につけたまま、疲れも忘れて校門をくぐる。同じ様な境遇の者が集まっているから中学の時のように貧乏ということで卑屈になることもない。それどころか、教室は、昼間、それぞれの職場で疲れ、傷ついた心を癒すオアシスの意味も持っていた。私は、中学時代の自分の態度に対する反省もあって、誰とも、積極的に付き合うようにした。

1学年は2クラスあって、1クラス30数人だった。クラスのほとんどの者が職業を持っている。公務員もいれば、町工場で働くものもいるし、私のように家業に従事している者もいた。だから話題も豊富だった。そしてここで、いろいろな情報を交換し合えることは有意義で勉強になった。

私と同じく1年遅れて入学した仲間に萩原秀雄という男がいた。新進食料に勤めていて、気が強くプライドも高かった。2中で生徒会長をやっていたというだけあって、勉強もよく出来、向学心に燃えていた。同志的な感情が芽生えて、私とはすぐに親しくなったが、彼の一見、尊大に見える態度に反感を抱く者もいたらしい。

ある時、些細なことで彼が殴られ眼鏡が二つに割れて飛び散った。傍にいた私は、自分が殴られたようにカッとなって、気がついたときは、この男の顔面に力まかせのパンチを叩き込んでいた。毎日餅つきをして、力には自信がある方であったから、この男、目を打たれて医者に通う程のダメージを受けた。

この時は、お互いが悪かったと謝って、事は落ち着いたかに見えた。しかし、実はそうではなかったのである。後で知った事であるが、あるグループの中で、中村は、関係がないのに手を出して汚い、中村をやれということになったらしい。そして、私は気づかなかったが、ある男が秘かに機会を伺っていたのである。

私は、ある夜、学校帰り、自転車置き場の裸電球の下で、こっぴどく、顔が青く腫れあがる程殴られた。自分の為にこんな結果になって済まない、と萩原秀雄はしきりに同情するのだった。

萩原は良く頑張って大学へ進み、現在は労働省の役人として頑張っている。当時の私は、写真でも殺気立って見える程、張りつめた気持で毎日を過ごしていたのである。

この事件が決着し、やがて2年生になる。2年になるとクラスの雰囲気も大分変わった。腰掛組で去る者は去り、本当に定時制で学ぶ者だけの落ち着いたクラスとなったのである。(明日の日曜日に続きます)

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